終身雇用の限界がいろいろなニュースから明らかになってきたいま、「専門性を持っていないと職にあぶれる!」と危機感を持っている人が増えてきているように感じます。
私は数年前から就活生のOB訪問も良く受けていますが、特に最近の就活生は自分の専門性が身につく会社を選ぼうとする意識が強く見えますし、私と年齢の近いアラサー社会人も「転職できるうちに専門性の身に着く会社に移った方が良いのでは」と悩んでいる傾向が強いように思います。
個人的には、専門性を高めたいという意識を持つことはとても良いことだと思いますし、自分もそのようなマインドを常に持っていたいと思っています。
しかし、各メディアが「専門性」「専門性」と煽るため、専門性を追い求めたキャリア迷子が出るのではないかと不安に思う気持ちもあります。
今回は20代で2度の転職を経験した私が、転職マーケットで求められるのは専門性以前に「ポータブルスキル」であるということ。
特に20代のうちはまずは専門性を追い求めるよりもポータブルスキルを磨く方に目を向ける方が遥かに良いよ。
といったことをお伝えできればと思います。
専門性という言葉に踊らされている、今の仕事で専門性が身につかないことに焦っている、他の会社でも求められるために今何をすべきか悩んでいるという方は、今回の記事を参考にしてもらえればと思います。
そもそもスキルセットには階層がある
あなたはスキルピラミッドを意識できているか
専門性、専門性と言われる世の中ではありますが、そもそもスキルにはいくつかの階層があります。
こちらの図を確認してください。
このようにスキルセットは大きく3階層に分かれます。
最下層のスタンス(マインドセット)が大前提
まず最下層に位置するのががスタンス(マインドセット)です。
こちらは仕事への姿勢やプロ意識ですね。
簡単に言うと、納期を守れるとか、与えられた仕事をやり切るとか、そのたぐいですね。
ちなみに強みの資質については他の記事で紹介しています。
こちらはストレングスファインダーというツールで測定できますので、興味のある方は確認してみてください。
こちらの最下層部分は社会人として仕事をするうえでなくてはならないものです。
誰も無責任な人に仕事を任せたいとは思いませんし、やる気のない人には仕事を任せたいとは思いません。
サラリーマンである以上、すべての人が備えていないといけないスキルセットになります。
真ん中の層がポータブルスキル
そしてスタンスの上の層に位置するのが、ポータブルスキルと呼ばれるものです。
今回取り上げたいのがこのポータブルスキルですね。
この中には「対自分力」「対人力」「対課題力」というものがあります。
上の図に書かれている内容ですが、改めてまとめると以下のようになります。
・対自分力:内省、自己客観視、自己の役割理解、スケジュール管理 など
・対人力:顧客との関係構築、部下マネジメント、部門連係 など
・対課題力:柔軟性、情報の分析、適切な課題設定、課題解決能力 など
このように特定の分野での強みといった内容ではなく、仕事を進めていくうえでのスキルセットが扱われていることが特徴です。
これらのスキルを持っている人は業界を問わず活躍できる傾向にあります。
最上層が専門性だけど・・・
そして最上に位置するのが「専門性」です。
「経理」や「知財戦略」など、資格などを活かした専門性がここに属します。
あとは業界知識といったところでしょうか。
例えば製薬業界の広告規制について熟知しているというのも専門性に属します。
よくメディアで訴えられる専門性というのはこのレイヤーを指摘される場合が多いですね。
実は専門性に頼ることが最も危険な行為
専門性は市場の変化をもろに受ける
これまで見てきたように、専門性は一番上の層になります。
しかしこの専門性の弱点は市場の影響をモロに受けるということです。
現代はグローバル化の影響、ITの発展の影響を受けて産業構造の変化が早くなってきています。
その中で、数年前に価値のあった専門性が今では意味のないものになっているということは珍しくありません。
2010年くらいまでは日本でもガラケーがメインで利用されていて、折り畳みの携帯電話について深い知識、技術を持った専門家は高い市場価値を持っていたでしょう。
しかしながら10年が経過した今はスマホが主流です。当然ガラケー時代に培ったハードの技術やソフトの技術も一部活かされる点もあるかと思いますが、かつてほどその専門性が活かされる仕事は少ないと思います。
税理士や会計士などの士業もそうでしょう。
これまでは専門的な知識を持つ彼らは重宝され、資格を取得すれば一生安泰と言われていました。
しかし、インターネットが発達し、情報へアクセスしやすくなった結果、簡単な申告業務などは個々人が自分で調べて対応できるようになっています。
勿論このような流れを受けて、税理士や会計士のビジネスの仕方は変化し、ある程度の専門性は活かせるかとは思いますが、従来ほどの専門性の高さは担保できなくなっています。
今後リーガルテックの発展すれば、法律に関する分野の垣根も低くなることが予想されます。
このように、現代社会では市場環境の変化が早く、これまで言われてきた専門性も、この市場変化の影響をモロに受けています。
専門性に頼ることの方がリスクが大きい
従来は一つの分野でとびぬけた専門性を確立すれば良いという傾向がありましたが、今後はそのような生き方は難しくなると思います。
お伝えした通り市場の変化が早くなっていますし、その中でどの専門性を持った人間が求められるかは、正直予測がつきません。
※予測ができる人は私に教えてください!!
そのような環境下で、「なにか専門性を!!」と躍起になるのは、個人的にはリスクとしか思えないのです。
もちろん何か一つのスキルを磨くことを目指して努力することは大切ですが、それにしがみつくことは危険な行為としか思えません。
意識を向けるべきはポータブルスキルになってくる
今後はどのような産業が発展するか予測できない
変化の早い世の中ですから、正直なところ今後どのような分野が発展するかなんて全く予想できません。
数年前はビッグデータで騒がれていたのに、今ではビッグデータなんて古いといったくらいになっています。
時代のトレンドはAIやIoTにシフトしています。
AIの発展によって、どれだけの仕事が置き換わるのかは正直分かりません。
IoTによってどれだけ世の中が変化するのか、ビジネスにどこまでのイノベーションと変革が起きるのか分かりません。
完璧な予想は不可能です。
ただ、おそらくあと数年もすればAIやIoTといったキーワードすら古いといった環境になるでしょう。
このような世の中で、特定の専門性を極めるというのは難しくなってくると思いますし、特定の専門性に頼るということはとても危険な行為としか思えません。
汎用性の高いスキルがあればそのスキルを身に付けるべき
しかしながら、どのような産業でも共通して役立つスキルがあります。
それがポータブルスキルです。
最初にあげたピラミッド図の真ん中に位置するものですね。
これからの世の中は、その時代ごとに成長している産業を渡り歩き、この「ポータブルスキル」を活かしてイノベーションを起こす人が求められる時代になると思います。
様々な業界を渡り歩き、その都度業界知識を身に付け、それぞれの業界で身に付けた知識や経験を横展開することができる人間が重宝されるでしょう。
転職して、多くの職場を経験すると分かりますが、今あなたが身に付けている知識やスキル、常識は他の業界では全くの非常識だったりします。
そしてそれまで身に付けてきたスキルが他の分野で活かされるということは良くあります。
ですが、正直どのスキルが役立つかなんて予測はつきません。
重要なのは
「ここに問題がありそうだな」→「あの業界で使った手法が使えそうだな」→「協力者を巻き込んで試してみよう」
と考えることができる能力や
「この業界とあの業界の技術繋げたら面白いことできるかも」→「これまでの人脈も使って人をつなげよう」→「実際にビジネスにしてみよう」
といった人脈と折衝力を持った人間になると思います。
必要なのは決して専門性などという大それたものではありません。
自分の頭でどれだけ考えられるか、色んな業界を渡り歩いて知見と人脈を構築できるか。
ここが勝負するべき点だと思います。
専門性偏重時代の次は専門性コネクト時代
最近の傾向として、ゼネラリスト型人間の価値が薄れ、専門性を持った人間が重宝される傾向がありました。
尖ったスキルを持った人間がすごい!!といった文化ですね。
でも私は、ビジネスマンとして生き残るといった意味ではこのような一つの専門性で生きていくのは厳しくなると思っています。
ひとつの専門性だけではいつその能力が陳腐化するか分からないからです。
あと10年20年経つころには専門性を持った人間を繋ぎ、統合する専門性コネクトができる人間が重宝されるようになるでしょう。
その時に必要となるのは、各業界に人脈を持ち、その人たちの言語を理解した上で人をつなげてビジネス創出できる人間だと思います。
終身雇用が崩壊する時代にむやみに「専門性」を求めるのではなく、まずは「ポータブルスキル」に目を向ける人が増えることを願います。
ポータブルスキルを磨くには
まずは現職で何をしてきたか、何ができそうかを見直そう
大手で一生安泰ということが難しくなると、焦る人も多いと思いますが、まずは現職でやってきた仕事と、これから担当しそうな仕事を見直しましょう。
今の仕事じゃスキルが身につかない!!と思っている人も冷静に仕事内容を振り返って「ポータブルスキル」に意識を向けてキャリアの棚卸をすると、なんだかんだ自分にもスキルが身についていることに気づけると思います。
あとはあなたが身に付けたポータブルスキルを具体的にイメージさせるだけの実績や、苦労した点などを語ることができればかなり良いです。
これは転職する転職しないにかかわらずやっておいて損はないです。
あなたを守るのはあなただけです。年に1回は振り返るようにしましょう。
もし相手に自分を印象付けるだけの実績やエピソードが無い場合は、今後の仕事でそのような経験ができそうか考えましょう。
そうすることで仕事への取り組み方も変わるかと思います。
現職でポータブルスキルを磨けない、実績をつくれないと思ったら
現職ではポータブルスキルを磨けない、ポータブルスキルを語るだけの実績を作れそうにないと思った方は転職も視野に入れて今後のキャリアを考えましょう。
これらのスキルやこれらを語るだけの実績は20代のうちには作っておきたいです。
どう考えても20代(遅くても30代前半まで)にそれを語るだけの実績が作れそうになければエージェントに相談しましょう。
エージェントはキャリアの棚卸とスキルの棚卸についても相談にのってくれます。
また、これまでも多くの方の相談にのっているため、個人の良さを引き出すのもうまいです。
私もエージェントに相談して自分に自信を持てたタイプです。
あなたも一度エージェントに相談することで「実は自分も市場価値のあるスキルと実績を身に付けていた!」と自信を持てるかもしれません。
個人的なおススメはマイナビエージェントですが、担当者との相性もあるので、相性が悪いと思ったら、リクナビ、dodaの担当者にも会ってみましょう。
転職してでも実績を作りたい人はビジネス規模を考えて
もし実績を早期につくりたいと考える人がいるなら、ビジネス規模は見たほうが良いです。
そして、もし数字で実績をあげたいという人がいれば
・新サービス(新市場)
・1施策のPDCAを短期で回せる
といったことを考えて仕事を探すと良いです。
自分の実績としても語りやすいですし、自分の頭で考えたということもアピールしやすいです。
履歴書にも書きやすくなるでしょう。
私はベンチャー転職で上記2つのポイントを狙うことで実績を積み上げました。
新市場であれば、実際にその市場で仕事をしていた私以上にその領域に詳しい人は少ないですし、自分の土俵を作ることもできます。
短期にPDCAをまわすことで経験値は断然に高まります。
これが大型商談で5年スパンのビジネスだったりすると、5年経っても1つの実績しか残すことができません。
若いうちに尖った実績を作りたい場合は上記の2つのポイントを意識することをおススメします。
さいごに
これからの時代は変化が早すぎて、なかなか予測がつきません。
キャリアをつくるのも難しくなりますし、なにが正解かなんて誰にも分かりません。
しかしながら、今回お伝えしたポータブルスキルは基本的にはどの業界でも必要なスキルになると思います。
下手に専門性を身に付けようと思う前に、まずはポータブルスキルを身に付けること、それを効果的に語れるだけの実績を残すことを意識して仕事をしてみてください。